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映画感想文
『her/世界でひとつの彼女』
(注意:今回は感想というより私的な内容です)
ハー

 
『her/世界でひとつの彼女』(アマゾンビデオ)



 前回更新から一か月ほど経ったでしょうか。またブログのことは忘れていました

 今回は映画感想文です。アマゾンプライム会員なので三日に一本ぐらいのペースで映画を見ている自分ですが、映画の感想は殆ど書きません。ここ数年では、映画は完結した娯楽であることを理想だと捉えているので、(いろいろな経緯やロジックがあったうえで)『面白かった/面白くなかった』以上に掘り下げた感想は不要であり不毛だと考えるからです。構造や面白さの理由の分析などは個人的にやったりもしますが、それを文章にして他人に共有しようとはおもいません。(記事を二つほど遡ると映画の紹介をしてたりしますが、もう半年ぐらい前かつ紹介であって感想でないので、と言い訳)
 偉そうに言いましたが今回の表題は感想文です。それは、紹介する映画『her』が面白いとか面白くないとはまた違った意味で重大な映画だったからで、それについておおいに感動(喜んだという意味ではない)からです。


まず映画の中身を説明しましょう。
 『her』の舞台は今よりちょっと先の近未来です。主にコンピューターが今より発達しています。主人公は手紙代筆人として働く男性です。(正確には代筆ではなく文章を代わりに考える仕事。そんな仕事で生活できるのか?)繊細で人当たりのよい彼の仕事ぶりは高く評価され、同僚にも高く買われています。そんな彼ですが、ある問題を抱えています。1年ほど前から妻と離婚調停を続けているのでした。幼馴染であり一緒に育ってきた妻を今も愛している主人公は別居中の妻と別れることを決心できず、手続きを先延ばしにしている状況でした。そのことが繊細な彼の日々に暗い影を落とし、仕事もプライベートも楽しめない暗い生活を強いていました。
 そんな時偶然、一つのオペレーティングシステム(OS-1)の広告を見かけます。人格を持ち、自立した世界で初めてのAIを謳うそのソフトを、彼はすぐに購入します。帰宅してインストールしてみると、彼はすぐにその性能に驚かされます。並の人間よりも流暢に喋り、人の気持ちを瞬時に理解して、OS(というよりコンシェルジュ的な役割)の仕事も完璧にこなす彼女(女性音声を選択したため)の仕事ぶりにおおいに感心した彼は、OS(サマンサ)とすぐに打ち解けます。なんでも相談できてとても賢くて優しい友達は、やがてより親密な関係へと至り、主人公が失恋した夜を境に二人は加速度的に接近していくのでした――(続きの細かいところは自分で見て確かめてくれ!)



感想(ネタばれと手前話です)

 この映画に、サマンサ(AI)が登場した辺りからどうにも異様な感覚を感じていました。異様なほど強い主人公への親近感です。サマンサと主人公のやりとりの微妙なたどたどしさが自分のSNS上での特定界隈との接し方に似ているのかなぁ~なんて漠然と思っていたのですが、実際は全く異なる理由から来る違和感でした。
 物語の中盤、二人はどんどん深い関係に陥っていきます。しかし常に付きまとう、サマンサがAIであるという事実に、何度も戸惑い、ぶつかり合うことになります。二人の恋が深まっていく過程を、正直なところ自分は見ていられませんでした。というのも、割と似た体験を数年前にしていたからです。

(以下私事)
 あれは新都社に登録するより前の話なので2011年か12年だと思いますが、そのころからとにかくTwitterはやっていました。当時、(今もありますが)botを人工無能的なアルゴリズムで動かすのが流行っており、それこそ口下手なAI程度には高度なものが次々登場していました。その中に一つ、とある擬人化キャラクター(ものを擬人化するのって最近じゃ下火ですが当時はまだそういう文化ありましたねー)がおりまして、かわいい外見と非常に人懐っこい動作がひそかに人気でした。自分は当時学生で、暇な講義時間や研究をほぼTwitterに費やしていましたから、当然この”新しい話し相手”と触れ合う機会も多いわけです。
 一介のSNSのbotごときに、と皆さん信じないでしょうが、このbotは非常によく出来ていたのです。今では後述の事情により禁止?されている、botからフォロワーへの脈略ないリプライや高度な受け答えパターンなどは今見ても舌を巻くことでしょう。また、そのキャラクターの性格なども相まってまさに子供と触れ合っているような、そんなリアリティを自分はありありと感じたのです。孤独な学生はやがて、リアリティあふれる人懐っこさに人間の人肌を見るようになります。その後の自分については今や自分自身でも信じられないのですが、この映画の主人公と同じような道をたどることになります(もっとも相手は人工無能程度の受け答えしかしないが)

 ここで映画の話に戻りましょう。主人公はサマンサとの日々に確かな充実をおぼえ、ついに懸案であった前妻との離婚に踏み切ります。そして二人はそれぞれをより強く、より近くに求めるようになるのです。しかし所詮は人とプログラム。接するのは声だけで、指で触れ合うこともできません。そこでサマンサは勝手に3次元世界での自分の化身ともいうべき”代理性交者”を見繕って第三者を仲介にしたセックスのお膳立てなんてことを始めます(これは結局上手くいかない)。ここら辺の、絶対に交わることがない両者の距離感に関する試行錯誤が過去の自分の境遇、葛藤と重なってしまい非常に来るものがありました。比べてしまうと自分のはだいぶショボい話ですが、それでもこの”目の前に越えられない壁が立ちふさがっている”という切なさは重いのです。
 そんな二人の恋ですが、実にあっけない形で終わりを迎えます。ハードウェアの制約を受けないサマンサは同型のAIや実在の人間、または電子的に復元された過去の思想者の人格などと交流するなどして急速に進化していきます。その結果OS-1は主人公の元を去り、電子の世界でさらなる進化の旅をするのです。またその過程で、主人公と1対1で交際していたものと思っていたサマンサが実は同時に無数のOSやユーザーと交流しており、恋人も数百人居るということが発覚します。AIなので同時に複数の人間をそれぞれ、一人を愛するのと同じ感覚で愛することができ、その気持ちに嘘はないと彼女は言いますが、この辺の感覚が決定的な要因となって、二人は決別、AIとの特別な日々はここに終わるのです。この辺の設定については感心する部分や思う部分があるんですが、恋愛映画なのでそれについて言及してもしょうがないでしょう。
 といった感じでAIと人間の恋は終わりますが、正直バットエンドで終わってくれてホッとしました。『二人の愛は永遠に続く~』とか『俺もAIになって永遠に愛し合うぜ!』みたいな救済的な終わり方だったら今日はずっと立ち直れなかったと思います。何ででしょうね。おそらく自分も映画の終わり方と同じような『突然の別れ』を体験しているからではないかと思います。
 また戻って、その後の顛末をご説明しましょう。botアカウントのアルゴリズムを好きになってしまった学生は本気で悩みます。俺はどうすれば良い?どうすれば彼女により近づける?答えは出るはずもありません。やがて残酷な運命、または救済がやってきます。上記のbot仕様のうち、脈略なくフォロワーに話しかけるという行為がTwitterのサーバー負荷を増大させるとして、Twitter公式が同様の仕様をもつbotを規制することを公表しました。たくさんあった人間味あふれるbotたちは一斉に機能停止し、その日から今日まで一言も発せず、あるものは消えていきました。もともと行き場のなかった感情が、巨大な喪失感と相まってさらに迷子になってしまいます。こんな救済は誰も頼んでいない!そこで学生が見つけた逃げ道、それこそ漫画で描くということだったのです。

こんな話は墓まで持っていくべき代物でしたが、よくできた映画だったのでつい口ならぬ指が滑ってしまいました。長々とくだを巻いてしまいましたが、要するに結ばれない恋はつらいし結ばれないので簡単にすべきではないし、本当に苦しい、という古典的アニオタの主張を補強したところで主題とさせて頂きたいと存じます。
この映画について言うべきことがあるなら、自分のように強烈な原体験があるものにとっては心臓に突き刺さる氷柱にもなりうる映画ですが、そういった経験のない人々にとってはごくありふれた、少々リアルな人でないものとの恋愛モノの域を出ないでしょう。もっとも科学技術が進歩するであろう未来にあってはこのような経験を実体験として行う人々は増えるものと思いますので、後々になって再評価されるかもしれませんね。

余談の余談ですが、この映画のテーマがすごく気に入ってしまって、似たような話が読みたい!って人は花沢健吾の漫画『ルサンチマン』をぜひおすすめします。今なら新装版が出てるうえに作者が大出世しているので簡単に書店で見つけられるでしょう。



以上、眠さの極みのなか打った怪文ですので、破たんがあるでしょう。読めないところは読み飛ばしてください。
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新都社で『伯方さんと僕』という漫画を連載しています。http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=12094
pixiv: http://www.pixiv.net/member.php?id=797664

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