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提案:報われないヒロインのカタルシスとは -名作映画の人間関係に見る一例-


 こんにちは、お久しぶりです。就労してから一時期はまったくアニメを見ない虚無オタクになっていた私ですが、ここ3期ほどはほぼ連続で1作品以上のアニメを見ています。何も見なかった時に比べ、気持ちにハリが出るように感じられてとても気分がいいです。
 そんな流れもありましてつい先日、ダーリン・イン・ザ・フランキスというロボットアニメを6話まで一気に見ました。とても好感のもてる作品だったので、今後も視聴していこうと思います。このアニメ、10代前半の頃にぼくらのとかエウレカとか見てきたわたし世代には殊更刺さる感じのアニメだ、というのとは別方向で界隈を熱くしているようです。

「青い子は不憫」でいい。それでも彼女は生きていて僕たちは生かされている。(サカウヱ)

 あー好き。ほんと好き。と、いち創作趣味者としても思うところありましたので背景を整理などしておくか~など考えていましたところふと、ある映画の主人公の事が頭に浮かびました。その映画は1780年代のウィーンを舞台に、当時ヨーロッパじゅうでその才能を知られていた劇作家・作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトと、同じくウィーンの神聖ローマ帝国宮廷で宮廷学長を務める劇作家・作曲家アントニオ・サリエリの確執と描いた映画「アマデウス」です。実はこの映画を見た今年の頭に、感動したので感想書くべさと勇んで草稿を作っておいたものの長くなりすぎて放置していたというのもありまして、今回はその草稿を大部分流用したものとなります。先に申し上げておきますと、主題関係なくほとんど映画の話です。無理にくっつけずに映画感想だけ単体でも良かったんじゃないかとはちらっと思いましたが、とにかく書きます。

***以下、映画本編の感想***


 映画アマデウスを見た。のは1月末なのだが遅ればせながら感想を書く。
アマデウス
 中身は知らなくともこのポスタービジュアルを見たことがある人は多いのではないか。中央にどかんとシルエットで描かれた人物が、白い目だけをぎろっとこちらに向けている。シンプルながら印象的である。私もこの映画を知ったのはこのポスタービジュアルに目を惹かれたからだ。

 さて感想と言ったが、脚本とか時代背景とかを長々書き連ねて表することはしない。この映画は面白かった。五つ星満点が相応しい。問題は何が面白かったかであり、そのうち何をパクって自分の作話に活かせるか、この点に絞って振り返ろうと思った。この映画は完璧であるから、面白さに寄与している点がいくつもある。以下に列挙する。


何が面白かったか:

1.忠実な時代考証・ロケハン
 解説によれば主要な舞台となるウィーン市の町並みやいくつかの歌劇場は現存する当時のものやプラハの町並みを使っているのだそう。加えて当時の風俗文物、風習や娯楽や服飾、あるいは料理や音楽まで、背景に非常に凝っている。18世紀のウィーンにロケに行ったんだろう、そう思えるほど舞台セット感がなかった。これは真似出来ない。

2.精細で巧みなキャラクターの心情推移と帰結
 主人公であり語り部でもあるアントニオ・サリエリ先生の、当人の言葉によって語られる心情と殺人計画の進行、そして顛末。★が5つあったとして、3つ半は間違いなくこの部分によるものだろう。以下ではこれについて突っ込んで考えていく。(いくつもあるとか言って二つしかなかったわごめん)



 その前にサリエリ先生と、彼が気を揉む相手であるモーツァルトの作中でのひととなりについて要点を上げておこう(なお本作は相当部分が創作であり、特に二人の関係については史実とは異なっている)以下ネタバレ。


 ・サリエリ先生
 本名アントニオ・サリエリ。神聖ローマ帝国はウィーンの神聖ローマ帝国宮廷で宮廷楽長を務めたイタリア人音楽家(この時代、イタリアは芸術の先進地域であり欧州のどの国でもオペラや歌劇は基本的にイタリア語で公演されるものだった。然るに音楽界でもイタリア出身者が幅を利かせていた)。彼の幼少時代の経歴には劇中冒頭で若干触れられるが、彼は本編開始時点で神聖ローマ帝国の宮廷楽長(=ヨーロッパ音楽界の頂点)の地位に上り詰めているので作中では重要ではない。相対的に見ると彼は相当に地位が高い人物で、金も名誉も充分に持っているのだが本作は彼の視点によって描かれるため、天才への嫉妬とその才能への尊敬によって板挟みに遭う凡人という立ち位置になっている。

 ・モーツァルト
 本名ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。神聖ローマ帝国ザルツブルク生まれのドイツ人(当時は国家への帰属や愛国主義に基づく国家意識が今ほど明確ではなく、そもそもドイツという統一国家もないのでドイツ系はどこでもドイツ人だった)。歴史に埋もれ忘れ去られたサリエリ先生とは対象的に後世にその名を残した大天才であり、作中では天賦の才によって誰にも達し得ないほどの作曲・作劇能力をもった人物として描かれる。幼いころに父親によって音楽の才能を見出された後すぐに高等な音楽教育を施され、その後は神童としてヨーロッパじゅうの宮廷や都市をめぐって才能を見せて回る旅をしていた。そんな生い立ちのせいか、あるいは神が音楽以外の才能を全く与えなかったのか、後世の評にもあるようにかなり「破天荒」な人物として描かれている。才能はあるが社交性も生活力も金銭感覚も皆無というその姿は、天才とかカリスマという言葉がもつ悪い方の意味もしっかり付与されているキャラクターだといえる。また父のコントロールのもとで長く過ごしてきたことから、父親とはコンプレックスに近い複雑な関係であった。物語の後半では第二の主人公として、家族を持ち経済的に独立し父を喪うという人間的なイベントのなかで徐々に消耗していく天才の姿をみせる。



・最大の努力をしてもなお及ばない自身の無力さをちょうど理解できるだけの才能

 サリエリ先生はヨーロッパ音楽界の頂点に立つに相応しい才能と能力を持ち、それに見合うだけの地位と名声を得ていた有能な人物だ。そのうえ勤勉で、かつ幼少期に立てた誓いに基いていい年して純潔を守るような誠実な人柄である。そんな人が、才能という一点だけに秀でた無礼な若造に、どんなに努力してもかなわない事を悟ってしまうばかりか、その若造の才能に心酔してしまうのだ。
 サリエリ先生の場合は力負けするだけではなく、モーツァルトへの嫉妬から完全に人生の調子を崩してしまっている。既に充分といえるほどの成功を収めているにも関わらず、モーツァルトしか眼中にないサリエリ先生にとっては自分の才能や業績など無価値な凡人のそれでしかないと彼は考えるようになる。その認識が嫉妬に火をつけ、モーツァルトが死ぬように暗に仕向けるという凶行に彼を駆り立てる。才能と地位と名声の全てを手にした宮廷楽長が、直接ではないにせよ怨恨殺人者に成り下がってしまうのだ。この、地位と名誉を兼ね備えた大の大人を一歩も前に勧めないデッドロックに陥れた関係性こそがこの映画の核だと私は感じた。




***草稿ここまで***



 映画の感想としては総評の部分が抜けていますので、ここで本稿の主題に引き継ぎましょう。上記のサリエリ先生は中年男性であり、少女を外的にも内的にも消費するというアニメ的カルチャーからは縁遠い訳ですが、これが例えば美少女だったら如何になるでしょう。


・すべての試み、努力、願いが破綻へと収束することが確約されているポジション

 殺人者うんぬんというのは別にしても、自分が何をしても完全に相手におよばない事が分かりきっているうえ、相手を憎むこともできないという先生の状況を10代の美少女ヒロインに適する形に書き換えてみましょう。アニメで美少女とくればたいていは主人公を取り合う(あるいは単独の)恋愛についての話です。特にティーン・エイジャー向け作品(要するに夜やってるアニメやライトノベル)について顕著ですが、恋愛主題にせよ主題とは別の群像劇要素の中の男女関係に恋愛が付随するにせよ、恋愛要素のない話のほうが少ないのではないかと思われるほど、物語にとって恋愛要素は普遍的なものです。先生の例に倣うなら、このヒロインが抱いた恋は叶いません。場合分けで考えてみましょう。


・初めから決まっていたかのごとく恋の鞘当てで負ける安牌選択肢ヒロイン

 恋愛は相手があるものですから最低二人で行うことになりますが、それ以上の場合もあります。一人の異性をめぐって複数の同性が火花を散らす展開ですね。マルチエンディングが前提のギャルゲーをアニメに仕立てたものや、視聴者層の多様な需要を満たすべく複数のヒロインが用意されているアニメではしばしば、誰か一人を選ぶことで残りのヒロインは余ります。(ただし、あまり安直に奪い合いを描写すると凄惨になってしまうので、ハーレムなどと言って全員とのゆるい関係・八方美人を許容したり、奪い合いをするにしても予選的な出来事を経て1対1に絞り込んでおくなどの対処がなされる場合が多いかと思われます。1対1に絞っておくのは敗者が団結して主人公を数で糾弾する展開を予期させないためです)ところが、これは見る側のちんちんの都合とでも言うべきかと思いますが、余った子にもしばしば笑顔が要求されます。観客が自己投影すべき主人公がフッた子が、結果をよしとせず意気消沈したり恨み節をつぶやいていたりすると、せっかく成就したほうの恋に集中できないし後味が悪いからです。これを正当化すべく、あるいは本稿で提示する効果を意図的に狙ったうえで、ヒロインが不貞腐れることを防ぐ状況を作っておく場合があります。いい例がヒロインの恋のライバルはヒロインの親友でもあり、というやつです。冒頭にリンクを掲載した記事で言われる「青い子」にもこのパターンの子は多いかと思います。
 この「パートナーの獲得(物質的充足)が失敗したうえに精神的にも不自然な振る舞いを強要され充足できない」デッドロックを、ヒロイン(の人格)を内的に消費する行為だと私は考えています。直感的ではない表現になっていますが、例えばアニメキャラを外見的=肉体的に消費するといった場合は性的に見る、あるいは作中で性行為をさせるなどで、そのカウンターから言えばキャラクターの人格に外的な力をかけて、あるいは傷つけることとが内的な消費だといえます。外的な力をかける、というのは例えば苦境に陥るような展開に持っていくというような意味です。これがなぜ消費になるのかについて事項で抜き出して書いていきましょう。


・内心の不道徳が肯定されるのが物語

 物語のカタルシスの原理から言えば、物質的か精神的かに問わず登場人物が制裁をうけるには、制裁に見合うだけの理由が必要だということになります。ラストで主人公に倒されるためには、悪役は序盤に相応の悪行をこなしておかなければなりません。そうでなくては、主人公の下す制裁の手段である暴力や悪意ある行為が正当化されないからです。この理屈に従えば、作中で主人公にフラれるヒロインは何か悪行をしていたことになりますが、例えばヒロインが冒頭で貧しい農民を切り捨てたり小さい子供からお菓子を奪ったりしているようなことがあれば、別のもっと大きい問題になるでしょう。では報われないヒロインの罪はなんでしょう。美しく生まれてしまったことでしょうか?違います。
 視聴者の投影対象である主人公の選択によってフラれたヒロインは明確に展開から制裁を受けている訳ですが、この場合は上記の原理は適用されません。ここで満たされる視聴者の感情は、悪人が廃された開放感ではなく、自分の意思で他者を束縛したという征服感です。他者を自分の意思によって束縛したいという征服欲は現実ではあまり褒められた感情ではないですが、物語は人間の願望と快感によって生まれたものですからこれは尊重されるべき原理です。
 報われないヒロインのカタルシスは、報われないことで満たされる視聴者の征服欲によって保証されているのです(背景にある原理はこれだけではありません)。


・最も惨めなライバルなき敗北

 ここで、補足的になりますが上で触れなかったシチュエーションについても考えましょう。本稿では映画アマデウスのサリエリ先生を起点に報われないヒロインについて考えてきた訳ですが、サリエリ先生に立場を共有するライバルは居ませんでした。というかモーツァルトがライバルだった訳ですが、モーツァルトは恋敵というより片思いの相手でありますから、一人の異性を複数人のヒロインで取り合うシチュエーションよりも、一人の異性に一人のヒロインのほうがよりサリエリ的です。青い髪のあの子にライバルが居なかったら、何が起こるのでしょうか。
 勘違いしてはいけないのが、ライバルが消えたからと言って障害が無くなったという訳ではなという点です。二つ上の項では適切な具体例が思いつかなかったので触れませんでしたが、サリエリ先生流に行くなら「何らかの事情で」恋愛は成就しません。それは立場上や二人の願望のズレ、あるいはもっと外的な事情が突然降ってくるか分かりませんが、とにかく二人は結ばれません。
 この場合、例えば主人公が病死したり戦争が起こった、みたいな事情だとただの悲恋物語になってしまうので少々複雑ですが、要するに「ライバルも居ないのに、据え膳だったのに上手く行かなかった」という状況にヒロインを落とし込むことが肝心です。理由は告げられなくてもいいかもしれないですね。
 この惨めさ!不条理さよ!これこそ「報われないヒロイン」像の完成形ではないかと信じて止みません。こういうアニメあったら教えてクレメンス!



総評:

 ここまで映画アマデウスの主人公サリエリ先生を例に、報われないヒロインがなぜ可愛いのか、なぜ見てて気持ちが良いのかについて自分なりに明らかにしてきました。これらの文章は意見であり、事実であるとは限らない点についての注意を重ねて述べておきます。
 もし、これを読んだあなたがお話を描こうと思ったら、その時はこの狂ったブログを思い出して、報われないキャラクターを出すかどうか一考してみるのもいいかもしれません。おわり。

 あとちょっと思ったんですけど、アマデウスを登場人物の性別を変えてそのまま、あるいはキャラクターの立ち位置だけを持ち越した別の物語として誂え直したら面白いんじゃないんですかね。

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新都社で『伯方さんと僕』という漫画を連載しています。http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=12094
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